「幸せの4因子」モデル研究について

クウジット代表の末吉です。

2022年の現在、「幸せ」や「ウェルビーイング」という言葉をさまざまな領域で耳にすることが多くなってきました。「幸せって何?」「あなたの幸せとは?」という問いは、あまりにも抽象的で、漠然としています。しかしながら、コロナに限らずさまざまな社会課題が可視化され、戦争やテロ、社会不安が世界を覆っている現在、現代人がより一層「幸せ」について考える機会が増えているのかもしれません。そのような背景のもと、幸せやウェルビーイング(well-being)についての活動紹介とまとめの第一稿として筆をとっています。

まずは、「幸せ」や「ウェルビーイング」について、そして、「幸せの4因子」研究についての話をしたいと思います。

2015年当時、私自身「幸せ」について、何らかクウジットが得意とするところのテクノロジーが貢献できないかのだろうかと考えていたとき、宗教や哲学、文学、あるいはスピリチュアルな領域なら「幸せ」と相性よいだろうが、なかなか科学的なアプローチは難しいのでは?と思っていたことがありました。知り合いの僧侶づてに、若手宗教者の超宗派イベントにコラボ参加して知見を高めようと思ったこともあります。

九州で開催されたイノベーション教育学会にて、「幸福学」(happiness study, well-being research)という領域を研究されている慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)の前野隆司教授を知ることになるのですが、当初、「あれが、幸せで有名な前野先生だよ」と紹介されたときに、「幸せで有名?」ってどういうことだろうか。確かに、幸せそうには見えるけど…などと思ったものでした。前野先生は、幸せな心の状態をおもに心理学ベースと因子分析の手法で「幸せの4因子」モデルを発表されていることを知ったのは同学会後のことでした。すぐさま、前野先生に連絡をとり、その後、慶應SDM研究所研究員として共同研究活動をスタートさせてもらう好機を得ました。

前野先生(右)と筆者(2019年)

さて、「ウェルビーイング」という言葉は、直訳すれば、”well”(よい、良好な)な”being”(ありよう)ですから、よい状態、良好な状態であることです。これは、最近では、「幸せ」や「幸福」と同義として訳されはじめています。

また、世界保健機関(WHO)憲章では、「健康」の定義について、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(ウェルビーイング)と記述されています。すなわち、もともとWHO憲章の観点からの「健康」とは、個人の身体的なことだけではなく、心の状態、そして、人は社会性の動物ですから、社会的にも良好であること、この3つが満たされてはじめて「健康」と定義されています。

これらの「幸せ」や「(広義の)健康」、「ウェルビーイング」な状態、すなわち、心も体も社会的にも満たされた状態とは、どのようなもので、さまざまな科学的な研究が進んできました。

まず「幸せ」についての研究にて、「幸せ」を計測できなければなりません。そもそも、人それぞれの幸せを計測できるものなのでしょうか。まず幸せには、「地位財」型の幸せと「非地位財」型の幸せの2種類があるといわれています。地位財の幸せとは、わかりやすいところで金や地位、名誉、モノといった人と比べられる財であり、それを手にいれると幸せ感は上昇しますが、パルス的には上がるのですが長続きしません。そして、もっと、もっとと欲してしまうのです。非地位財の幸せは、(1) 安心・安全な環境や、(2) 健康な身体、そして(3) 良好な心の状態に分類できます。幸せ感が長続きする、じわじわ系の幸せです。

非地位財型の幸せの中で、とくに漠然としてなかなか見えないのが、「心の状態」です。幸せ感と書きましたが、幸福学では、主観的な自分の心の状態を所定の質問をもとに記録し、測られる主観的な幸福を主観的幸福度として分析研究してきた歴史があります。そして、前野先生の「幸せの4因子」モデルは、この非地位財型の幸せである、心の状態を心理学ベース、そして因子分析の手法で研究したアプローチと言えるでしょう。

「幸せの4因子」モデルが発表された当初は、日本人1,500人を対象に、主観的な幸福度を計測するアンケートによる定量的検証を用いて評価を行い、因子分析した結果特定された4因子です。その後も関連研究や社会実装活動が精力的に進められています。

  1. 第1因子の「やってみよう因子」は、自己実現と成長。夢や目標を持ち、自己実現と成長をする。目標を達成したり、目指すべき目標を持ち学習・成長していること。
  2. 第2因子の「ありがとう因子」は、つながりと感謝。人に感謝し、多様なつながりを持つ。多様な他者とのつながりを持ち、他人に感謝する傾向、他人に親切にする傾向が強いこと。
  3. 第3因子の「なんとかなる因子」は、まえむきと楽観。物事を気にしすぎず前向きで、楽観的である。ポジティブ・前向きに物事を捉え細かいことを気にしない傾向が強いこと。
  4. 第4因子の「あなたらしく因子」は、独立とマイペース。他人と比較せず自己肯定をし、独立心と自分らしさを持つ。自分の考えが明確で人の目を気にしない傾向が強いこと。

「幸せの4因子」モデルの研究では、これらの4つの因子を満たすことで心の状態が良くなることがわかっており、また、これら4つ因子を日々意識したり、自分の得意な因子だけを伸ばしていくだけでも、4因子全体が高まる傾向になってくることがわかっています。そして、「幸せ」は伝搬することが知られています。

すなわち、「幸せとは何?」ということをまず自分自身が知る(メタ認知する)ことは、たいへん重要で、まずは、自分自身の幸せ、すなわち心身ともに健康、そして社会的にもよい状態であることとは?に意識を向け、記録していくこと。さらにそれを他の人とシェアすることで、個人個人の幸せのみならず、社会の幸せにつながっていくものと考えられているわけです。

「幸せって何?」「あなたにとっての幸せとは?」の問いは、自分自身の幸せを発見する扉のみならず、ひいては社会の幸せへの扉にもなるわけですね!

(参考)

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