新虎通り周辺エリアの未来を考える社会実験「トイ」:街の人流を計測しました

港区芝地区総合支所と一般社団法人新虎通りエリアマネジメントから成る新虎通りエリアプラットフォーム協議会が主催する「新虎通り周辺エリアの未来を考える社会実験『トイ』」プロジェクト。
そのプロジェクトの一環として「TOY-7: TECHNOLOGY ~次世代技術でまちを観察する~」をテーマとする社会実験が行われ、クウジットは人流センサー「DF.sensor」を活用して、新橋・虎ノ門エリア数カ所における歩行者の量および流れの計測を行い、街の人々の動きを解析・考察する技術協力を行いました。
その実験結果をレポートいたします。

目次
1. 社会実験の目的と実施概要
2. 人流センサー”DF.sensor”について
3. 社会実験の実施方法と得られたデータの分析・考察(新虎通りの人流計測)
4. 社会実験で得られたデータの分析・考察(②南桜公園の利用者数計測)
5. 社会実験の成果
6. プライバシー情報に対するケア

■ Koozytプレスリリース:クウジット、新虎通り周辺エリアにおける社会実験「トイ」にて、歩行者の人流計測活動に技術協力
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000023749.html
■ 新橋経済新聞:新橋・虎ノ門エリアで新プロジェクト 社会実験「トイ」始動
https://shinbashi.keizai.biz/headline/2273/
■ 新虎通りエリアマネジメントFacebookページ
https://www.facebook.com/shintora.am/posts/120810623724099

1. 社会実験の目的と実施概要

本社会実験の目的・実施体制および実施概要は下記となります。

  1. 社会実験の目的
    • 新虎通り周辺エリアの未来ビジョン策定のための基礎データとして、新虎通りの人流(時間・場所別の歩行者量の違い)や南桜公園の利用者数を計測する。
    • 将来的な社会インフラ導入を見据えた実験として、次世代技術を活用し、その有用性を検証する。
  2. 社会実験の実施体制
  3. 社会実験の実施概要
    1. 新虎通りの人流計測
      新虎通り沿道の施設に1か月間センサーを設置し、新虎通りの人流(時間・場所別の歩行者量の違い)を計測する。
    2. 南桜公園の利用者数計測
      南桜公園に平日・休日の各1日ずつセンサーを設置し、南桜公園の利用者数を計測する。

2. 人流センサー”DF.sensor”について

2-1. DF.sensorとは
DF.sensorは、歩行者が持つスマートフォンなどのWi-Fi端末機器から発せられる電波を検知するセンサーです。検知された電波を解析することで、歩行者や来客者数の増減傾向や滞留時間、人の流れなどを推定できます。


■ ご参考:DF.sensor紹介サイト

2-2. DF.sensorの測定データと実データの相関関係

  • Wi-Fi端末からProbe信号が発信される頻度・間隔は、端末機種や利用状況によって異なるため、「いま検知できているWi-Fi端末がすべて」とは限りません。
  • また、歩行者によってはWi-Fi端末を持っていなかったり、もしくは複数台持っていたりする可能性があるため、Wi-Fi端末の数=歩行者の数とはなりません。
  • しかしながら、検知されたWi-Fi端末数の増減傾向と、実際の歩行者数の増減傾向は一定の相関関係があることがわかっています。
  • 今回の実証実験においても、その相関関係を確認するために、2021年秋に新橋・虎ノ門エリアで実施された交通量調査(調査発注者:UR都市機構/調査実施者:首都圏総合計画研究所様、トーニチコンサルタント様)に合わせてDF.sensor測定も行いました。

■ 2021年10月某日における相関関係の測定結果

  • 参考として、新橋・虎ノ門エリアのある地点での測定結果を上記グラフに表示しました。
  • 赤い線が手動カウントによる実データ。それ以外の線はDF.sensorの測定データとなります。
  • DF.sensorの測定データは、観測された電波の数をカウントするにあたり、どれくらいの電波強度(RSSI値)を対象とするかその閾値ごとにグラフを表示しています。

  • 実データとDS.sensor測定データとの相関係数を、何箇所かの測定地点を合わせてグラフ表示しました。
  • 測定地点によりバラつきがありますが、適切な電波強度の閾値(RSSI値)を設定すれば高い相関関係が得られ、実測値の増減傾向をDF.sensorにて捉えられるということがわかります。
  • ただし、「測定値の近傍にいる歩行者」であることを特定するために、電波強度の閾値(RSSI値)を適切に設定する必要があります。その閾値は測定値の条件によって大きく異なるため、DF.sensorを設置したあと、その測定地点における閾値を見極めるための事前調査が必要となります。

3. 社会実験の実施方法と得られたデータの分析・考察(新虎通りの人流計測)

3-1. 実施方法について

3-2. 得られたデータの分析・考察(日別・場所別の集計)
設置期間中、それぞれの日に観測したWi-Fi端末のユニーク数を、店舗ごとにグラフ表示しました。

  • 交差点の有無や歩道の広さなど設置箇所によって条件が違うため単純に比較できないですが、それぞれの箇所における混雑度の増減を測る参考値としてご認識ください。
  • オフィスが立ち並ぶビジネスエリアなのか、土日も賑わう繁華街なのかで曜日による増減の傾向が違うことがわかります。
  • また、往来数の多いGOOD MORNING CAFÉ&GRILL周辺での測定値について、4時間おきに色分けしたグラフを下図に示します。

  • ビジネスオフィスが立ち並ぶ街並みなため週末・休日の往来は減ることが予想されましたが、実際に測定してみると、週末・休日においても往来の賑わいは減少することなく、特に朝8時台から多くの歩行者が行き来している点は非常に興味深いです。

3-3. 得られたデータの分析・考察(平日における時間帯別・場所別の集計)
設置期間中の平日(月~金:祝日除く)において、観測したWi-Fi端末のユニーク数を1時間おきにグラフ表示しました。

  • 大きな交差点近くのTHE CORE KITCHEN/SPACEとGOOD MORNING CAFÉ&GRILL周辺は賑わっていることがわかります。
  • 午前中~夕方にかけてはどの地点ともに増減の傾向は似通っていますが、夜間は繁華街なのかビジネス・オフィス街なのかで傾向が分かれてくるところがわかります。

3-4. 得られたデータの分析・考察(コロナ禍の前後比較)
新虎通り沿いの新虎小屋には、2019年以降、約3年間にわたりDF.sensorを設置し、近辺の賑わいを観測し続けています。今回の社会実験のデータと合わせて、3年間のデータ推移を下図に示します。

新虎通り沿いの新虎小屋には、2019年以降、約3年間にわたりDF.sensorを設置し、近辺の賑わいを観測し続けています。今回の社会実験のデータと合わせて、3年間のデータ推移を下図に示します。

  • コロナ禍の緊急事態宣言により、これまで盛況だった新虎小屋界隈の賑わいが急激に落ち込んでいるのがわかります。
  • 徐々に賑わいを取り戻していますが、それでもコロナ前に比べると安定した賑わいには程遠い数値となっています。
  • ※ 一時的にDF.sensorを撤去した時期があるため、上記グラフにおいて数値がゼロになっている時期があります。
  • ※ 2021/11/9以降は、社会実験スタートにともない、DFセンサーの設置位置を変更しました。そのため電波受信の感度が向上したので、それ以前のデータと同条件では比較できません。あくまで参考値としてご了承ください。

3-5. 得られたデータの分析・考察(場所別の人流集計)
各測定地点に設置されたDF.sensorにて、歩行者が持つスマートフォン等から発せられるWi-Fi電波を観測することで周辺にどれくらいの人がいるかを推定できます。
観測されるWi-Fi電波には、識別ID(MACアドレス)が含まれているため、複数の地点でそのIDを追うことでその歩行者の流れを推定することができます。(識別IDには個人を特定できる情報はなく、プライバシー保護対策も実施しています)
※ ただし、スマートフォンなどWi-Fi端末によってはMACアドレスが不定期にランダマイズされるため、長時間における人流測定は難しい等の考慮が必要となります。
※ DF.sensor では 個人のプライバシーを配慮してMACアドレス自体は一切記録してません。


朝昼夕方の各2時間スロット内にて観測された人流のユニーク数を下記のグラフに表します。(朝7~9時, 昼11~13時, 夕方17~19時それぞれの測定データを表示)

  • A~B地点間において、夕方17時台は他時間帯に比べて人流が多く観測できています。週末は平日に比べて低いですが、昼11時台も夕方17時台も変わらないようです。
  • B~C地点間、A~C地点間の人流は非常に少ない結果となっています。

4. 社会実験で得られたデータの分析・考察(南桜公園の利用者数計測)

4-1. 社会実験の実施方法
南桜公園に平日・休日の各1日ずつDF.sensorを設置し、南桜公園の利用者数を計測しました。(測定日:2022年2月某日)

  • 公園の中央に近い「D地点」に設置したDF.sensorの測定値をメインとし、公園西側の管理棟内の「E地点」は補助データとして使用しました。

4-2. 得られたデータの分析・考察(D地点)
D地点において計測された24時間のデータを下記のグラフに表示します。(平日、休日の各1日ずつ計測)

  • 平日
    • 昼12時台にピークが観測されています。
    • あと夕方の通勤ラッシュ時および夜間に何度かピークが観測されています。
    • 全般的には午前より午後のほうが利用者は多いようです。
  • 休日
    • ほぼ利用者はいません。(0人もしくは1人の状態が多い)
    • 早朝および午後に軽いピークが見られます。
    • 午後6時すぎにもピークがありますが、たまたまこの日だけなのか判断が難しいです。

また、E地点における同日のデータも下記のグラフに表示します。

  • 西側等の道路が近いため、公園利用者というより通行人を観測してしまっていると思われます。
  • D地点のデータと比べると、平日/休日ともにそれなりのWi-Fi端末数が観測できています。
  • これにより、「周辺の通行量はそれなりにあるが、公園利用者はほとんど居ない」ということが推測されます。

5. 社会実験の結果

5-1. 得られたデータのまとめ(1) 新虎通りの人流計測結果

  • 前述の結果から、かなり多くの方が新虎通りを歩行していることがわかりました。
  • ですが、A~B地点の往来数は多いのですが、それに比較してB~C地点の往来数はかなり少なくなっています。
  • JR新橋駅と虎ノ門ヒルズ方面の間を通勤で行き来する歩行者は多いと思われますが、B~C地点の往来数が少ないのは、以下などの理由が想定されます。
    • C地点付近は歩道が狭く、歩行者数は少ない傾向にある。
    • JR新橋駅とB地点を結ぶ導線は、烏森通りや仲通りなど選択肢が多い。

5-2. 得られたデータのまとめ(2) 南桜公園の利用者数計測結果

  • 全般的にそれほど公園の利用者数は多くありません。
  • とはいうものの、2月という極寒期であることを考慮すると、想定以上に利用者は居るとも言えます。(特に平日の正午付近)
  • これは、コロナ禍による密を避けるため、ランチや休憩など開放的な公園を利用している方が少なからず居るということが推測されます。
  • また、休日などはそれほど多くはないものの、常に一定数の利用者が居るのは、犬の散歩やウォーキングなどで公園に立ち寄る方が多いのでしょうか。

5-3. 次世代技術(DF.sensor)の活用の意義

  • 今回、新虎通り沿いの5店舗に4週間、南桜公園に2日間、DF.sensorを設置してそれぞれ周辺の賑わいを測定・解析しました。
  • また、それに先駆けて交通量調査に便乗し、人力による調査とDF.sensorによる調査の比較を行いました。
  • IoT技術を駆使したDF.sensorを用いることで人力では難しい測定が容易に成し遂げることが可能となりますが、一方、DF.sensorには苦手な環境条件もあり、状況に応じてで活用していくことが必要かと考えられます。
  • DF.sensor活用の利点
    • 深夜/早朝などを含む長期間の測定には、DF.sensorを活用した自動化がかなり有効
    • 複数のDF.sensorが測定したデータをクラウド連携することで、エリア全体の人流や滞留など、マクロ視点での解析が容易
    • リアルタイムなデータ集計が可能なため、商業施設やイベント会場などで混雑度に応じた即時の対策が可能となる
  • DF.sensorの苦手領域
    • 近辺の建物形状などによって電波の伝搬度合いは大きく影響を受けるため、想定以上に遠くまで伝搬する or 伝搬しないという状況が多々発生する。そのため周囲のWi-Fi端末数を正確にカウントするのは難しく、あくまで増減傾向を測定する目的にしか利用できない。
    • 電源が必要。バッテリーを使用することで2日程度の駆動は可能だが、電源供給できない環境では長期間の測定を行えない。

クウジットでは、グー・チョキ・パートナーズと共同で、IoT/データ解析技術を活用して街の元気度を計測する『まちかち』活動を推進しています。今回の社会実験トイにて得られた知見をもとに「街活動における基礎データプラットフォーム」の研究開発をより推し進め、『まちかち』活動として新橋・虎ノ門エリア以外にも広げていければと考えています。

■ 「まちかち」活動について

  • 「まちかち」活動とは、IoT/データ解析技術を用いて、街の元気度を計測し、さまざまな街活動を行う上での基礎データプラットフォームを構築していこうとする活動です。
    https://www.koozyt.com/press/2021/pr210831.html

6. プライバシー情報に対するケア

  • プライバシー保護の観点から、情報管理ポリシーと情報取得目的、情報の削除方法などについて、お客様にご覧いただける形で掲示する必要があります。
  • 総務省から発信されているプライバシーレポート
    http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000144.html
  • それを配慮して、今回の社会実験においても公園の掲示板や設置店舗内などに実験実施の告知文を掲載させていただきました。

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