“Where2.0” というカンファレンスが、5/12-14 米サンフランシスコで開催されます。ネーミングからわかるように、O’reillyの主催で2005年から毎年開催されており、今年で4回目。そこで扱われる話題は、 Web2.0カンファレンスの位置情報サービス版といったところでしょうか。私は、2005年当時は、ちょうどソニーコンピュータサイエンス研究所にて、PlaceEngineプロジェクトを企画していた時期でもあり、毎年のWhere2.0カンファレンス時期には、リアルタイムで伝えられる現地Webニュースやブログなどからその動向には注目、プロジェクト定例などでは、研究員同士で熱く議論していました。予算の関係もあり、実際に参加する機会はこれまで持てませんでしたが、今回2008年のWhere2.0カンファレンスには、 PlaceEngine関連でCFP(Call for Proposal)が通り、デモ展示に招待されていることもあり、参加することができそうです!
それもあり、公式サイト上にあるAbout Where2.0情報の要約と私の記憶から Where2.0動向を簡単に記してみます。
2005年の第1回から昨年まで、扱われている話題を追いかけると、(1) Web2.0的アイデアの1つの根幹を成すユーザー主導のデータ収集、集合知の考え方を位置情報サービスに展開している事例とトレンド (2) 位置情報サービス(LBS:Location Based Service)、地理空間(Geospacial)システムのオープンスタンダード化のための技術やフォーマットの話 (3) インターネットに接続された位置情報、地理空間情報のデータ可視化(Data Visualization)の話題では、Googleや、Microsoft、 オープンソース系ではNASA World Wind などのプラットフォームやツール上での事例など (4)そして、位置情報センシング系では、GPS技術はもとより、IPアドレスやWi-Fi電波情報からの位置取得、RFIDなどによるセンシングネットワークにまで話題は広がります。
2006年には、Google Maps APIに代表される地図APIサービスを利用して生まれてきた位置情報マッシュアップ系サービスの数々が紹介され、その話題がネット上で流れ、盛り上がりました。いわゆるユーザー参加型で、ユーザー自身の地図が簡単に作成でき、地図上に登録した位置情報を友人や不特定多数間で共有し、その話題について語り、コミュニケーションするというWebマッシュアップ系サービスですね。これら、地図上のソーシャルデータサービスは、Google Mapsの地図上に地点データ(POI: Point of Interest)を表示する際に、虫ピンアイコンを使って表示される様から、カンファンレスでは総称して、”pushpin apps”と呼ばれていたのを思い出します。(ところで、地図APIサービスは、Google Mapsに限らず Microsoft Vitrual Earth, Yahoo! Maps, その後 2007年には、GIS業界 MapQuestからも地図APIサービスがベータ公開されています。)最近では、ユーザー参加型でデータを集め、集合知化するというソーシャルデータの事例は、POIデータのみではなく、地図データそのものもユーザー参加型で作って提供しようというOpen Street Mapプロジェクトのような事例まで現れました。
一方で、”pushpin apps” などのユーザー参加型のソーシャルデータサービスでは、ビジネスモデル不在がよく語られますが、Where2.0的見解では、ユーザー主導、ユーザーのライフスタイルにマッチすることこそがまず重要で、広く普及したその後に、商用が来る。それがWeb2.0時代のビジネスレシピだ。というわけです。
2007 年には、GoogleのStreetside View と Microsoft のLive Search Maps(3Dビュー)が発表され、Google vs. Microsoft 地図対決として話題となりました。また、Dash Navigationのような常時ネット接続のPNDシステムで、位置情報を集約する、いわゆる車体からの「プローブ情報」の事例がとりあげられ、その後、カーナビ領域にも”Where2.0”というキーワードが広がってきているように思います。(ITS(Intelligent Transport System)やインターネット自動車領域などで語られる「プローブ情報」とは、実際に走行している自動車から、速度や位置などのデータをリアルタイムに収集し、渋滞情報や天候情報などのサービスに活用しようというものです。)、このように昨年は、位置情報、地理空間情報系のプラットフォームメーカーからWebサービス事業者、デバイスメーカー、セットメーカー含め多様な参加者になってきました。
さて、今年2008年のカンファレンスのテーマは、”Location is reactive relative”です。
#reactive ではなくてrelative でした… 一回読み間違えて覚えてしまうと、何度みても間違いに気がつかないものですね。(2008.05.04記)
リアクティブが、文字通り、場所・空間は、静的なものでないという意味から来るのか、ロボティクスの分野からの「リアクティブシステム」から来ているのか(外部環境としての場所・空間には、刺激がいっぱいという意味?)、はたまた、ロケーションビジネスは、やってみないと反応が返ってこない!ということなのわかりませんが、今年は、どのようなトレンドを作り出していくのでしょうか。この3月に発表されたYahoo!のオープンなロケーションフレームワーク Fire Eagleのプレゼンもあるようで、楽しみです。
最後に、話は Where2.0とは、ちょっと変わりますが、リアクティブから転じて発想したことをつらつらと。
先日、サイバーマップ・ジャパンの村田社長と雑談する機会がありました。氏いわく「位置情報をとにかくカジュアルに!がやりたいことだよ」と何度も語られてました。位置情報をエンターテインメント用途でカジュアルに使った事例が、まさに先日公開されたケータイ国盗り合戦だと思いますが、私ももちろん登録しています。(日常生活圏でしか登録できてないので、ほんのライトユーザーですが…)リアルな位置に連動して、国を統一していくいうゲーム感覚もさることながら、ポイントを稼ぐために毎日1問出題されては答えることのできる「本日のクイズ」では、歴史のお題(「豊臣秀吉が、その昔…」といった感じ)が出るのですが、教室で歴史の教科書を読むのとはまた異なる感覚で、時空間を越えてなぜか歴史上の事物を身近に感じてしまいます。
リアルな場所・空間には、その場特有の特徴が染み込んでおり、そこに人が生活し、集い、また訪れることにより、それが想起される感覚があります。たとえば、私は、お気に入りの本屋や文房具屋に行くと、とてもわくわく、まずトイレに行って落ち着いてから店内をまわりたくなるくらいなのですが、人それぞれが感じるリアルで豊かな場所・空間に関する情報というか感覚を、その一部でもデジタル化でき、シェアすることができれば、ソーシャルデータを利用した位置情報サービスは、次の展開につながっていくかもしれません。(場所がリアクティブでなく、人の脳がリアクティブな話なのですが)
未来の超個人的な携帯コンシェルジェサービスや映画マイノリティ・レポートの世界に出てくるような場所が自分に訴えてくるようなリコメンドサービス(デジタルサイネージなどの将来)が、そのような方向を担っていくのでしょうか。(「この場所やばそう。逃げろ!(ピーピー)」とか^^) はたまた商業主義に走りすぎ、ユーザーのライフスタイルに浸透するまでには至らないでしょうか。Where2.0的にいえば、走りながら考えようといったところでしょう。私自身も位置情報をより身近に、人々の日常生活をそっと後押しするようなライフスタイルの実現を目指して、実世界とネット世界を融合した新しい体験価値を創造していきたいと常々思っており、試行錯誤しています。試行錯誤のさまは、別の機会にでも紹介できればと思っています。
元へと返して、私信も交えて、Where2.0参加される業界関係の方々、ぜひ現地でお会いしたく!また、実際に現地での体験なども別途レポートできればと思います。