相田みつを美術館で先日10/20より開始した位置連動作品ガイド「DaMoNo(だ・も・の)」は、1か月の運用を経て安定稼働してきました。少しばかり、振り返って、今後の展望をまとめておきたいと思います。
「DaMoNo」アプリ画面イメージ
「DaMoNo」デモビデオ
今回、クウジットの手がけた「ロケーション・アンプ」の対象となる空間は、有楽町は、国際フォーラム内にある相田みつを美術館です。相田みつを氏といえば、「にんげんだもの」でおなじみの書家、詩人で、その美術館は、ご長男である相田一人館長によって運営されています。ちょうど1年ほど前に、知人を通じて、美術館を紹介いただき、クウジットの目指す「ロケーション・アンプ」のコンセプト(場所や空間をIT技術で”増幅”(アンプ)し、日常生活をそっと後押しするという)に共感いただき、意見交換がスタートしました。プロジェクトが実際にスタートしたのは、5月くらいからでしょうか。クウジット内部のプロジェクトコードネームは、 “damono” と名づけました。そう、コードネームがそのまま正式名称になったのです。「にんげんだもの」の “だもの”からそのまんま取ったものなのですが、プロジェクトを進めるうちに愛着が湧き、ぜひこのままサービス名称で行かせてもらえないだろうか?と館長に提案したところ、快諾。のちに、サービス開始してから何度となく取材等でご一緒しているのですが、「最初は、べたで気恥ずかしいと思ったけど、たいへんよいネーミング」と、どうやらかなり気に入ってもらえているご様子。ほっとしております。
左:相田一人館長、美術館前にて
さて、「ロケーション・アンプ」の特長の1つは、既存の屋内施設で、ユーザーがどこにいるかを瞬時に把握し情報を出しわける空間を創り出すことです。DaMoNoでは、作品展示室ごとに、入室、退室、どこにどの程度滞留したかが把握できるようにしています。屋内位置測位には、市販の無線LANアクセスポイントを館内に設置し、そこから発信される電波情報を利用する「PlaceEngine」により位置を把握します。相田みつを美術館の場合は、天井にライティングレールがありますから、電源工事も一切不要でした。既存の建物が、安価にスケーラブルに最先端の位置や空間に連動したサービスを享受できる空間に早変わりするわけです。
「ロケーション・アンプ」システムイメージ
「DaMoNo」の企画・デザインフェーズでは、「美術館ガイド」としてはよく知られた音声によるガイドではなく、視覚を使ったガイドいう観点から、どのようなデザインに落としこんでいくかが大きな課題となりました。もともと、リアルな目の前の作品を鑑賞し体験するのが美術館の目的ですから、その鑑賞体験を”そっと後押し”するものでなくてはなりません。そして、10代〜70代と幅広い年齢層が来場し、土日ともなれば、展示室の周囲を練り歩くように人垣ができ、1人あたりの滞留時間も長いことが特徴です。このような空間においては、どのように体験価値を増幅できるのか試行錯誤を続けました。出した答えはシンプル。相田みつを美術館に年に2回、上京の度に訪れているというプロジェクトメンバーの親戚の方(50代女性)をペルソナに設定し、ややもするとあれもやりたい、これもやりたいと技術指向になってしまう機能をそぎ落として行きました。(※1) iPhoneを使ったことがないユーザーがほとんどであろうことを想定し、極力操作ステップをはぶきました。Koozytに、ユーザビリティデザインと感性工学の専門がいたことも今回の領域的にマッチしたかもしれません。
サービス開始してから、この1カ月程度は、無料貸し出し(※2)を行っていたということもあり、貸出し機材は、すべて出払っているという状況となり、来場者の多くのお客様に「DaMoNo」をご利用いただけました。
当初、タッチパネルの操作に戸惑うユーザーも多いかなと思ったのですが、これまでのアンケート結果では、一度なれるとほぼ問題ないようです。(実際、駅の切符購入からATMまでタッチパネルの時代ですものね)また、作品点数について、展示されている全ての作品にガイドをつけてほしいというリクエストもありますが、現在は、作品展示室ごとに、館長の選定した作品のみにガイドをつけています。これは、もちろんコストやスケジュールの問題もありますが、館内でのユーザー回遊・滞留度設計(端末を見ている時間が長くなってしまっては本末転倒)にも大きく依存してきます。
最後まで悩んだのは、文字サイズ。1画面のページ内に収まる文字数とページ操作数との兼ね合いだったのですが、最後は、館長(やはり50代)の読める!の後押しだったのですが、いまレビューすると、館長は、iPhoneヘビーユーザーという特殊事情を割引かないとでしたね(笑) ただ、あらためて思うことは、館長の「人と違う新しいことをやりたい。」「持って、使って、”心地よい”と自分が思うものでなくては!」という強いこだわりと想いから、今回のiPhoneによる近未来美術館ガイド「DaMoNo」の実現に結びついたのだとあらためて思います。(この手の新しい試みは、内部の推進力となる方との出会いで実現することが多いのです)
実際にサービス設計を行う段階で、第1ホール内にあるカフェや、第2ホールへのユーザーの誘因を行いたいという相田みつを美術館ならではの課題やニーズも見えていました。相田みつを美術館では、作品鑑賞を通して湧きあがる想いを自己の中で反芻し思索の場にもしてほしいとのコンセプトがあり、いたるところに休憩場所が設置されています。カフェも例外ではなく、実は何も注文しなくてもそこに座り、他の来場者が残した感想文(リアルな文集として収録)が閲覧できるようになっていたりします。ただ、もともとカフェはお茶するところであり、何か飲み物を頼まなければ入れないという先入観からか、なかなかカフェに入ってもらえません。また、物理的に第1ホール、第2ホールと分かれていることから、第2ホールへ向かうには、一度館外に出なければならない作りになっており、第2ホールへの誘因を積極的に行う必要があるわけです。
現在、サービス開始1カ月程度ですが、第2ホールへの実際に向かうユーザーや、カフェを実際に利用してくれるユーザーの割合や滞留度などもリアルな数字として見えてきて、場所・空間連動のサービスを継続的に改善していくため、まず現状を把握、共有、レビューすることが可能となり、今後どのような改善、対策を打っていくかが、議論できる基盤が整ったわけです。ユーザーの回遊・滞留を促すために、アプリケーションによるタイムリーなアノテーションなども積極的に取り組んでいきますが、これらは、IT技術による施策で、すべて解決する必要はないのです。運営によるタイムリーな声かけやサイネージ見直しなども有効になるでしょう。ロケーション・アンプが、そのとっかかりとなれば、結果的に、リアルな場所・空間がアンプされ、パワーアップできるのですから。また、聴覚障害の方が来場され、実際に「DaMoNo」の取り組みを聞いて使っていただき、好反応がいただけたこともありました。どれも今後につながる大きな財産となっていくでしょう。
10/19 相田みつを美術館にて開催されたプレスイベントの様子
プレスイベントには、三井アウトレットパーク仙台港でのロケーション・アンプ事例でもお世話になったソフトバンクモバイル iPhone事業推進室の盛山さんも駆けつけていただき、Koozytのリアルな場所での取り組みと、iPhoneとの組み合わせについて、一言頂戴いただきました。
私は、場所・空間に連動したサービスは、多様であれという想いから、リアルな建築設計プロセスと同様に、エリアオーナーと丹念にビジネスニーズ検討を行い、どのような方向でアンプしたいのか、そして何より、そこに集うユーザーのニーズとマッチングさせ、(背後には高度なIT技術を活用したとしてもそれを全く感じさせないくらい透明に)日常生活を”そっと後押しする”サービスとして届けたいと思っています。今年の初め、建築家の青木淳氏と意見交換させていただいたときに、「本来都市や建物は、多様性であるべきだ」とのお話から、特にそう思うようになりました。将来的には、既存の建物のみならず、新規物件においては、建築家の方々や都市計画などにかかわる方々とコンセプトレベルで議論できるよう経験を積み、クウジットならではの役割を担いたいというビジョンを持って試行錯誤中です。
ちなみに、私の好きな相田みつを作品は、『とにかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば 具体的な答が出るから』 でしょうかw
さてさて、次は、どこを具体的にアンプしようかしら!
※1: ITmediaさんの取材時にもお答えしましたが、初期の企画提案では、美術館内の光源が比較的安定していることから、カメラ画像認識を使ったKART(Koozyt AR Technology)マーカー型ARソリューションも含まれていたんですよ。もちろん、相田みつを風のマーカーデザインにしてね^^)
※2: 現在は、200円で現地貸出サービスを行っています。また、iPhone/iPod touchユーザーの方は、アルバム+現地ガイド機能の有料アプリケーション販売(800円)も App Storeで行っています。App Storeアプリ版は、12/20まで相田みつを美術館の入館料(大人800円)が何度でも無料になる特典つきです!アプリは今週英語にも対応しました。